本文へスキップ
看護師の移住マネーガイド
お金・手取り

夜勤手当は年収のどこに入っているのか——統計の「看護師の平均年収」の正しい読み方

統計に出てくる「看護師の平均年収」は、夜勤をしている人としていない人を混ぜた平均です。賃金構造基本統計調査の年収は、夜勤手当・時間外手当を含む月々の給与を12倍し、そこに賞与を足して作られています。だから日勤のみの働き方に変えれば、同じ都市に住んでいても統計値より下がります。この記事では年収の組み立てを分解し、額面が動いたときに手取りがいくら動くのかを、52都市の実データで示します。

公開
最終更新
読了目安
17
執筆
看護師の移住マネーガイド 運営部

結論: 統計の年収は「夜勤込み」の数字である

本サイトの都市ページに載せている想定年収は、厚生労働省の賃金構造基本統計調査から取った看護師の都道府県別の値です。この数字には夜勤手当と時間外手当が含まれています。つまり東京23区の569.0万円は「夜勤も時間外もしない人の年収」ではなく、夜勤をしている人としていない人を混ぜた平均です。

この前提を知らずに求人票の提示額と統計値を並べると、読み違えが起きます。日勤のみの求人を検討している人は統計値より低い水準を基準にすべきですし、夜勤回数の多い職場を検討している人は統計値より高い水準がありえます。どちらにどれだけ動くかは、統計からは決まりません。自分の給与明細の夜勤手当欄を見て初めて決まります。

  • 統計の年収は「きまって支給する現金給与額 × 12 + 年間賞与その他特別給与額」で作られ、前者に夜勤手当・時間外手当が入っている
  • 額面が動いても手取りは同じ額だけ動かない。本記事で比較した5組では、額面差のうち手取りに残るのは70.8〜73.6%だった(52都市の全組み合わせに広げると65.9〜78.1%・中央値およそ72%)
  • 統計値は都道府県単位。横浜市・川崎市・相模原市はいずれも546.26万円で、市ごとの違いも病院ごとの違いも反映されていない

統計の年収は2つの部品からできている

この節でわかるのは、統計の年収がどの部品を足し合わせた数字なのかです。結論は、月々の給与に夜勤手当が含まれ、それが12倍されて年収の大部分を作っている、ということです。

賃金構造基本統計調査の年収の作り方

年収 = きまって支給する現金給与額 × 12 + 年間賞与その他特別給与額

「きまって支給する現金給与額」は調査対象月に支給された額、「年間賞与その他特別給与額」は前年1年間に支給された賞与等の合計です。どちらも所得税や社会保険料を引く前の額面で、手取りではありません。

「きまって支給する現金給与額」に入っているもの

この項目は、労働契約であらかじめ支給条件と計算方法が決まっている給与と、超過労働給与額の合計です。看護師の給与明細でいえば、次のものが同じ一つの箱に入ります。

  • 基本給
  • 職務手当・資格手当など、毎月定額で支給される手当
  • 通勤手当・住宅手当など、支給条件があらかじめ決まっている手当
  • 夜勤手当・交替勤務手当・深夜勤務手当(超過労働給与額)
  • 時間外勤務手当・休日出勤手当(同じく超過労働給与額)

夜勤手当が基本給と同じ箱に入っている点が重要です。統計の公表値からは、両者を分けて取り出せません。だから統計の年収を見ても、そのうち何円が夜勤由来なのかはわかりません。わかるのは、その平均には夜勤をしている人の手当が織り込まれている、という事実だけです。

「年間賞与その他特別給与額」に入っているもの

前年1年間に実際に支払われた賞与・期末手当・一時金の合計です。求人票の「賞与年◯か月」に対応する部分で、支給月数は病院ごとに違います。本サイトの都市ページは年収の合計値だけを掲載しており、月例給与と賞与の内訳は載せていません。内訳が必要な場合は、賃金構造基本統計調査の原表を直接確認してください。

夜勤手当が動くと、手取りは額面の約7割だけ動く

この節でわかるのは、夜勤手当が減ったり増えたりしたときに手取りがいくら動くかの目安です。答えは「額面の変化の約7割」です。

まず額面と手取りの距離を確認します。東京23区の想定年収569.0万円は、標準条件の試算で社会保険料835,862円、所得税165,500円、住民税287,100円が引かれ、年間の手取りは4,401,538円になります。引かれる合計は1,288,462円で、額面の22.6%にあたります。

このうち社会保険料は835,862円で、額面の14.7%を占めます。内訳は厚生年金保険料520,635円、健康保険料280,233円、雇用保険料28,450円、子ども・子育て支援金6,544円です。料率でいえば厚生年金の本人負担分9.15%、協会けんぽ東京支部の健康保険料の本人負担分4.925%、子ども・子育て支援金の本人負担分0.115%、雇用保険料0.5%で、足すと14.69%になります。これらはいずれも報酬額に比例するため、夜勤手当が増えれば社会保険料も同じ比率で増え、減れば減ります。定率で引かれること、これが額面の変化がそのまま手取りに届かない一つ目の理由です。

二つ目の理由は所得税と住民税です。額面が増えれば課税所得も増え、税額も増えます。上の所得税165,500円は、569.0万円から給与所得控除1,578,000円を引いた給与所得4,112,000円に対し、社会保険料控除835,862円と、令和7年度・令和8年度の税制改正後の基礎控除(合計所得金額に応じた段階制で、この年収帯では68万円)を差し引いた課税所得2,596,000円から算出した額です(復興特別所得税2.1%込み)。額面が動けば課税所得も動くので、この税額も連動します。社会保険料と税を合わせると、額面の変化のうち手元に残る割合は7割前後に落ち着きます。52都市のデータで、年収水準の違う都市どうしの額面差と手取り差を突き合わせたのが次の表です。

都市間の想定年収の差と、標準条件で計算した年間手取りの差(40歳未満・扶養なし)
比較する2都市想定年収の差年間手取りの差手取りに残る割合
東京23区 と 静岡市473,000円336,356円71.1%
東京23区 と 札幌市570,000円419,574円73.6%
京都市 と 岡山市749,300円543,192円72.5%
大阪市 と 福岡市880,000円622,924円70.8%
東京23区 と 鹿児島市1,420,900円1,034,346円72.8%
出典: 賃金構造基本統計調査 令和6年 第3表(職種(特掲)・都道府県別) 2024

この5組はいずれも70.8〜73.6%の範囲に収まりました。額面が10万円変われば手取りは7万円強、というのが実務上の目安になります。たとえば夜勤手当が年473,000円分(東京23区と静岡市の統計上の年収差と同じ規模)減った場合、この5組の比較レンジを当てはめると、手取りの減少はおよそ33万〜35万円程度と見積もれます。

ただし70.8〜73.6%は、表に挙げた5組から出た幅にすぎません。52都市について、想定年収の差が30万円以上あるすべての組み合わせ(726組)を機械的に計算すると、手取りに残る割合は65.9%(札幌市と福島市)から78.1%(福島市と鹿児島市)まで広がります。中央値はおよそ72%で、「7割前後」という目安そのものは動きませんが、上下に1割近い幅があることは知っておいてください。同じ473,000円の減少でも、この全体レンジで見れば約31万2千円から約36万9千円までばらつきます。

幅が生まれる理由は3つあります。健康保険料率が都道府県ごとに違うこと、住民税に超過課税を上乗せしている市があること、そして年収水準によって所得税の税率区分(5%・10%・20%…)が変わることです。比較する2都市がこの3つのどれかをまたぐと、額面差に対する手取り差の比率がずれます。だから0.7は「桁を掴むための係数」であって、精密な換算率ではありません。

夜勤手当が変わったときの手取りへの影響(概算)

手取りの変化 ≒ 年間の夜勤手当の変化 × 0.7

本サイトの52都市の試算値から導いた概算です。実際の割合は年収水準・扶養家族の有無・住んでいる都道府県によって上下します。桁を掴むための目安として使ってください。

自分の給与明細で夜勤手当の重さを測る手順

この節では、統計の数字を自分の条件に引き直す手順を示します。用意するものは直近の給与明細と源泉徴収票だけです。

  1. 給与明細の夜勤手当・深夜勤務手当・交替勤務手当の欄を合計する。時間外勤務手当は夜勤と切り分けられるよう、別に記録しておく。
  2. その月額を12倍する。夜勤回数が月ごとに変動する場合は、直近12か月分の明細か源泉徴収票の支払金額から年間の合計を出す。
  3. 日勤のみに移る場合は、いまの年収からその年間合計を引く。夜勤専従や夜勤増を検討している場合は、逆に足す。
  4. 求めた額面の変化に0.7を掛けて、手取りへの影響を概算する。
  5. その金額を、候補都市の家賃差・引っ越しの初期費用・通勤時間の変化と並べて比べる。

手順3で出た額面の変化を、都市間の年収差と並べると規模感がつかめます。東京23区(569.0万円)と静岡市・浜松市(521.7万円)の統計上の差は473,000円で、月に直すと39,417円です。給与明細の夜勤手当が月39,417円を超えているなら、あなたにとっては夜勤の有無のほうが、東京から静岡へ移ることよりも大きな額面の変化になります。

52都市の中で最も大きい年収差は、東京23区(569.0万円)と鹿児島市(426.9万円)の1,420,900円です。月に直すと118,408円。裏を返せば、都市を選び直して動かせる統計上の額面はこの範囲に収まります。参考までに52都市の想定年収は平均504.5万円、中央値509.1万円で、500万円以上の都市は33あります。

この年収は都道府県の値であって、病院の値ではない

ここまでの数字には、もう一つ大きな限界があります。賃金構造基本統計調査の看護師の年収は都道府県単位で集計されており、市単位でも病院単位でもありません。この節では、その粒度がどれくらい粗いのかを実際のデータで示します。

同じ都道府県にある都市には、同じ都道府県の値を当てています。そのため、原則として同じ(または限りなく近い)年収が表示されます。本サイトが扱う52都市のうち、横浜市・川崎市・相模原市の3市はいずれも546.26万円、静岡市と浜松市はいずれも521.7万円です。大阪市と堺市(560.0万円と559.83万円)、福岡市と北九州市(472.0万円と471.97万円)のようにわずかにずれている組み合わせもありますが、これは大阪市・福岡市側に令和6年調査ベースの二次集計値を、堺市・北九州市側に第3表からの一次算出値を使っているという出典処理の違いによるもので、市による給与水準の違いを表したものではありません。

粒度の粗さは、同じ数字が当たっている都市の病院数を並べると見えてきます。神奈川県の3市には合わせて189、静岡県の2市には56の病院がありますが、統計はそれらを1つの数字にまとめています。

同じ都道府県値が当たっている都市の病院数(2025年12月1日時点)
都市病院数
横浜市123
川崎市38
相模原市28
静岡市25
浜松市31
出典: 医療情報ネット オープンデータ 病院・施設情報(2025年12月1日時点版・PDL1.0) 2025

そして、同じ都道府県値が当たっている都市どうしでも、生活の結果まで同じになるわけではありません。手取りから家賃と生活費を引いて、毎月手元に残る金額まで計算すると差が出ます。

想定年収が同じでも「毎月残るお金」は変わる(神奈川県の3市・標準条件)
都市想定年収平均家賃(月)毎月残るお金
横浜市546.26万円62,436円135,483円
川崎市546.26万円67,309円131,735円
相模原市546.26万円52,127円148,117円

3市の想定年収は同じ546.26万円で、月の手取りも352,869円から352,944円とほぼ同じです。それでも毎月残るお金は、相模原市が148,117円、川崎市が131,735円で16,382円の差がつきます。年間では196,584円。この差の大部分にあたる15,182円は平均家賃の差(67,309円と52,127円)から、残る1,200円は物価水準の差から来る生活費の差(153,900円と152,700円)から生まれています。

静岡市と浜松市も同じ構造です。想定年収はどちらも521.7万円、月の手取りも338,765円で同一ですが、平均家賃は41,991円と33,327円で8,664円違い、さらに物価地域差指数が99.9と98.7で異なるため生活費も149,850円と148,050円で1,800円違います。家賃差と生活費差を合わせて毎月10,464円(年125,568円)の差になり、毎月残るお金は146,924円と157,388円に分かれます。統計の年収が同じでも、住む都市を変えれば結果は変わります。

求人票の「年収例」と統計値を比べるときの5つの確認

最後に、求人票の年収例と統計値を突き合わせるときの確認事項を整理します。両者は同じ「年収」という言葉を使っていますが、中身の前提が一致しているとは限りません。前提を揃えないまま高い低いを判断すると、夜勤回数の違いを給与水準の違いと取り違えます。

  1. 年収例に夜勤手当が何回分含まれているか。「月4回の夜勤を含む」と書かれていれば、その回数をこなさない月は下振れします。回数の記載がない年収例は、統計値と比べる土台になりません。
  2. 時間外勤務手当が含まれているか。固定残業代(みなし残業)が含まれる場合は、その時間数と、超過した分が別途支給されるかを確認します。
  3. 賞与が何か月分で計算されているか。統計の年間賞与その他特別給与額は実際に支払われた実績値ですが、求人票の年収例は支給予定の月数で計算されていることがあります。
  4. 住宅手当・通勤手当が年収例に含まれているか。含まれていれば、その分は家賃や交通費に消えるので、自由に使えるお金ではありません。
  5. 何年目・どの役職を想定した数字か。年収例はモデルケースであることが多く、自分の経験年数に対応する額とは限りません。

この5点が確認できたら、年収例から夜勤手当と固定残業代を差し引いた額を出してみてください。それが日勤のみで働いた場合の下限に近い数字になります。上限は、その職場で現実にこなせる夜勤回数を掛け戻した額です。統計値はこの上限と下限のあいだのどこかにある平均であって、どちらか一方を代表する数字ではありません。

よくある質問

統計の「看護師の平均年収」には夜勤手当が含まれていますか?
含まれています。賃金構造基本統計調査の年収は「きまって支給する現金給与額 × 12 + 年間賞与その他特別給与額」で計算され、前者には夜勤手当・深夜勤務手当・交替勤務手当・時間外勤務手当が入ります。基本給と同じ項目にまとめられているため、公表値から夜勤分だけを取り出すことはできません。統計値は、夜勤をしている人としていない人を混ぜた平均だと考えてください。
日勤のみの職場に移ると、年収は統計値よりどれくらい下がりますか?
下がる額は、いま受け取っている夜勤手当の額そのものです。人によって違うため、統計から一律の目安を出すことはできません。給与明細の夜勤手当欄を12倍して自分の数字を出してください。手取りへの影響は、その額面の変化に約0.7を掛けた金額が目安になります。本記事で比較した5組では、額面差のうち手取りに残る割合は70.8〜73.6%でした。52都市について想定年収の差が30万円以上あるすべての組み合わせに広げると65.9〜78.1%(中央値およそ72%)まで散らばるので、7割前後を中心に幅を見込んで判断してください。
求人票の年収例が統計値より高ければ、条件の良い職場と言えますか?
それだけでは判断できません。年収例に含まれる夜勤回数・固定残業時間・賞与月数・住宅手当の前提が統計と違えば、同じ土俵の比較になっていないためです。まず年収例の内訳を確認し、夜勤手当と固定残業代を差し引いた額を出してから比べてください。前提を揃えずに比べると、夜勤回数の多さを給与水準の高さと取り違えます。
同じ県内なら、どの市の病院でも年収は同じですか?
同じではありません。統計の値が都道府県単位で集計されているために、同じ数字が表示されるだけです。横浜市・川崎市・相模原市はいずれも546.26万円と表示されますが、この3市には合わせて189の病院があり、規模も設立母体も夜勤体制も異なります。都市どうしの比較には使えますが、個別の病院の年収を示す数字ではありません。応募先が絞れた段階で、求人票と就業規則で個別に確認してください。

この記事で使った出典