地方移住の隠れコストは車——月3万円が家賃の安さを打ち消す条件
地方に移って家賃が下がっても、車が必要な都市では月30,000円の維持費がその差を食い潰します。本サイトが比較する52都市のうち30都市は「車が必要」と判定しており、毎月残るお金のランキングでは下位20都市がすべてこの30都市に含まれます。この記事では、判定の基準と維持費の内訳を示したうえで、家賃差がいくらを超えれば車代を回収できるのかを計算式で示します。
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- 看護師の移住マネーガイド 運営部
結論: 52都市のうち30都市は車が必要——残るお金の下位20都市はすべてここに入る
本サイトが比較している全国52都市(都道府県庁所在市・政令指定都市)のうち、車が必要と判定した都市は30都市です。「あると便利」が20都市、「不要」は東京23区と大阪市の2都市だけ。そして毎月残るお金のランキングを見ると、33位から52位までの下位20都市がすべて、この「車が必要」な30都市に含まれます。
車が必要な都市は、家賃が安い傾向があります。それでも手元に残る金額が伸びないのは、月30,000円の維持費が家賃の安さを打ち消しているからです。30都市の平均家賃は36,224円で、それ以外22都市の平均48,485円より12,261円安い。しかし維持費30,000円のほうが17,739円大きく、家賃で浮いた分をそのまま上回ります。
| 判定区分 | 都市数 | 平均家賃 | 平均想定年収 | 平均で残るお金(月) |
|---|---|---|---|---|
| 車が必要 | 30都市 | 36,224円 | 490.4万円 | 104,040円 |
| あると便利・不要 | 22都市 | 48,485円 | 523.8万円 | 140,751円 |
| 差(後者 − 前者) | — | 12,261円 | 33.4万円 | 36,710円 |
右端の36,710円が、車が必要かどうかで開く月額の差です。内訳を分けると、月の手取りで20,002円、車の維持費で30,000円が「車が必要」な30都市の不利になり、家賃で12,261円、生活費で1,030円が有利分として戻ってきます。差し引きが36,710円です(各項目は平均値を四捨五入しているため、単純な足し引きとは1円の端数が出ます)。家賃で稼いだ分より、車と年収で失う分が大きいという構図です。
判定基準は「世帯当たり保有台数」と「自家用車通勤率」の2つ
判定には2つの公的統計を使っています。1つは都道府県別の世帯当たり乗用車保有台数(自動車検査登録情報協会・令和7年3月末現在)、もう1つは市区町村別の自家用車通勤・通学率(国勢調査令和2年)です。前者はその地域で1世帯が平均何台の乗用車を持っているか、後者は通勤・通学に自家用車を使う人の割合を表します。
- 車が必要(30都市): 自家用車通勤率50%以上、かつ世帯当たり保有台数1.0台以上。山形市(1.617台・79.0%)、福井市(1.670台・76.5%)、秋田市(1.360台・78.2%)などが該当します。
- あると便利(20都市): 上の条件に届かない中間水準の都市。加えて、県の値では「保有台数1.0台以上かつ通勤率50%以上」を満たしていても、政令指定都市で中心部の公共交通が整っている7市(仙台市・新潟市・静岡市・浜松市・名古屋市・岡山市・熊本市)は、この区分に下げています。
- 不要(2都市): 東京23区(0.405台・9.6%)と大阪市(0.611台・19.0%)のみ。目安は保有台数0.5台未満かつ通勤率20%未満で、東京23区はこれを満たします。大阪市は保有台数が0.611台とわずかに上回りますが、通勤率19.0%と中心部の公共交通網を踏まえて「不要」としました。通勤率が20%を下回る横浜市・川崎市・相模原市(各18.5%)と堺市(18.6%)は、保有台数が0.5台を超えるため「あると便利」にとどめています。
月30,000円の中身——燃料・任意保険・税・車検整備・駐車場
本サイトが車の必要な都市から差し引いている維持費は月30,000円です。軽自動車〜コンパクトカーを地方で1台持つ場合の標準値で、内訳は5項目に分かれます。この節を読めば、自分の条件でこの30,000円をどの項目から増減させればよいかがわかります。
| 費目 | 月額 | 年額換算 |
|---|---|---|
| 燃料 | 約7,000円 | 約84,000円 |
| 任意保険 | 約5,000円 | 約60,000円 |
| 自動車税・重量税・自賠責(月割) | 約4,000円 | 約48,000円 |
| 車検・整備・タイヤ(月割) | 約6,000円 | 約72,000円 |
| 駐車場(自宅の月極1台分・地方相場) | 約8,000円 | 約96,000円 |
| 合計 | 30,000円 | 360,000円 |
年間で360,000円、5年で1,800,000円です。家賃に置き換えると、月30,000円ぶんグレードの高い部屋に住める金額に相当します。移住先で「家賃が3万円下がった」と感じても、そこで車を1台持つなら、浮いた3万円はそのまま車に移るだけということになります。
5項目のうち、走行距離に反応するのは燃料の7,000円だけです。任意保険・税・車検整備の合計15,000円は、車を1台登録している限り走らせなくても発生します。駐車場8,000円も同じで、乗る回数と無関係です。「通勤にしか使わないから安く済む」という考え方が効く範囲は、30,000円のうち7,000円分にとどまります。
駐車場の8,000円は自宅の月極駐車場1台分の地方相場で、この30,000円に計上している駐車場は1枠だけです。保管場所(車庫)は自宅側に確保するのが原則で、職場の駐車場が無料でもこの8,000円は省けません。政令指定都市の中心部や都市部では月極相場がこれより高くなります。本サイトの試算は「車が必要」と判定した都市にだけ30,000円を当てているため、車が不要な都市であえて車を持つ場合の負担は、この表より大きくなると考えてください。
家賃がほぼ同じでも残るお金は違う——実在する2組の比較
家賃の安さと車の必要性は連動しています。家賃が安い順の上位10都市のうち8都市は「車が必要」と判定した都市です。家賃だけを見て候補を絞ると、ほぼ自動的に車が要る都市が並ぶことになります。この節では、家賃がほぼ同額なのに残るお金が大きく違う2組を並べて、差がどこから来ているかを分解します。
北九州市と大分市——家賃差はわずか18円
北九州市の平均家賃は34,336円、大分市は34,318円で、差は大分市が18円安いだけです。ところが毎月残るお金は、北九州市が125,633円(52都市中20位)、大分市が80,444円(同49位)。差は45,189円、年額にすると542,268円になります。
| 費目 | 北九州市 | 大分市 | 北九州市が有利な額 |
|---|---|---|---|
| 月の手取り | 308,919円 | 293,112円 | +15,807円 |
| 家賃 | 34,336円 | 34,318円 | −18円 |
| 基礎生活費(物価調整後) | 148,950円 | 148,350円 | −600円 |
| 車の維持費 | 0円 | 30,000円 | +30,000円 |
| 毎月残るお金 | 125,633円 | 80,444円 | +45,189円 |
45,189円のうち30,000円、つまり3分の2は車の維持費です。北九州市は自家用車通勤率49.6%で「あると便利」、大分市は70.4%で「車が必要」と判定が分かれました。家賃がほぼ同額の2市で順位が29位も離れた最大の理由がこれです。残りの15,807円は想定年収の差(北九州市472.0万円・大分市446.7万円)による手取りの差です。
浜松市と松山市——家賃差109円で、残るお金は68,717円違う
もう1組。浜松市の家賃33,327円に対し松山市は33,436円で、浜松市が109円安いだけです。しかし残るお金は浜松市157,388円(3位)、松山市88,671円(48位)で、差は68,717円あります。内訳は手取り差36,658円、生活費差1,950円、家賃差109円、そして車の維持費30,000円です。
浜松市が属する静岡県は世帯当たり保有台数1.344台・自家用車通勤率65.6%で、県の値だけ見れば「車が必要」の条件を満たします。それでも本サイトが「あると便利」に区分しているのは、浜松市が政令指定都市で中心部の公共交通が整っているからです。裏を返せば、同じ浜松市でも郊外に住んで郊外の病院に通うなら車は要ります。判定はあくまで市全体の傾向であり、自分の通勤経路で確かめる必要があります。
損益分岐: 家賃差がいくらを超えれば車代を回収できるか
ここまでの話は1本の式にまとめられます。いま住んでいる都市Aから、車が必要な都市Bに移ったとき、毎月残るお金が増える条件は次のとおりです。
家賃A − 家賃B > 30,000円 + (手取りA − 手取りB) + (生活費A − 生活費B)
左辺は家賃で浮く額、右辺は車代と収入減・生活費増の合計。左辺が右辺を上回れば、移住後のほうが手元に残ります。手取りと生活費が変わらなければ、分岐点は家賃差30,000円ちょうどです。
問題は「手取りと生活費が変わらない」という前提がほとんど成り立たないことです。車が必要な30都市の想定年収は平均490.4万円で、それ以外22都市の523.8万円より33.4万円低い。手取りが下がる分だけ、必要な家賃差は30,000円より大きくなります。実在する2つのケースで確かめます。
成立しない例: 東京23区から佐賀市へ
佐賀市は52都市で最も家賃が安く、31,064円です。東京23区の90,336円との差は59,272円。一見すると車代30,000円を余裕で上回りますが、手取りが月63,107円下がり、生活費は6,000円しか下がりません。
必要な家賃差 = 30,000 + 63,107 − 6,000 = 87,107円
実際の家賃差は59,272円なので、27,835円足りません。佐賀市で残るお金94,723円(46位)は、東京23区の122,558円(22位)を下回ります。
成立する例: 東京23区から前橋市へ
同じ東京23区からでも、前橋市なら成立します。前橋市の家賃34,855円との差は55,481円。想定年収538.8万円は52都市中10位と高いため、手取りの下がり幅は17,902円にとどまります。物価指数97.1により生活費も8,250円下がります。
必要な家賃差 = 30,000 + 17,902 − 8,250 = 39,652円
実際の家賃差は55,481円なので、15,829円上回ります。前橋市で残るお金138,387円は52都市中13位で、車が必要な30都市の中では最も高い順位です。
2つの例を分けたのは家賃ではなく想定年収です。佐賀市の464.8万円は52都市中47位、前橋市の538.8万円は10位。家賃はどちらも安い部類(佐賀市が52都市で1位、前橋市が13位)ですが、東京23区から移ったときの手取りの下がり幅が45,205円も違うため、前橋市だけが分岐点を越えました。車が必要な都市を選ぶなら、家賃の安さではなく「年収が落ちないこと」を先に確認する必要があります。
実際、車が必要な30都市のうち、毎月残るお金が52都市平均の119,571円を上回るのは4都市だけです。前橋市138,387円、宇都宮市124,694円、長野市120,448円、大津市119,797円。この4都市はいずれも家賃が52都市平均の41,411円を下回り、かつ想定年収の順位が52都市中17位以内という組み合わせで、月30,000円の維持費を吸収しています。
前提が違う人が30,000円を調整する方法
30,000円は標準値であって、全員に当てはまる金額ではありません。前提が違う人は、内訳の項目単位で足し引きしてください。順に確認していくと、自分の分岐点がどちらに動くかがわかります。
- 駐車場の8,000円を引いて22,000円で計算できるのは、自宅の駐車場代が家賃に含まれている物件に住む場合だけです。この8,000円は自宅の月極駐車場1台分の相場で、保管場所(車庫)は自宅側に確保するのが原則のため、職場の駐車場が無料でも消えません。職場の駐車場が有料なら、その月額を30,000円に上乗せしてください(無料ならこの標準値どおりです)。
- すでに車を所有していて、いまの都市でも同じように使っているなら、都市間の比較では両方に同額が乗るので差し引きゼロになります。この場合は車の行を消し、家賃と手取りだけで比べてください。
- いまは車を持っておらず、移住先で新たに1台持つなら、30,000円に加えて車両代がかかります。この試算に車両代は入っていないため、実際の負担は大きくなる方向にずれます。
- 通勤が片道数キロで週の走行距離が短いなら、燃料の7,000円は下振れします。ただし任意保険・税・車検整備の合計15,000円と駐車場8,000円は走行距離に関係なくかかるので、下げられる幅は限られます。
- 夜勤があり、終電・始発の時間帯に公共交通で通えないなら、区分が「あると便利」の都市でも実質的に車が必要です。判定を1段階上げ、30,000円を乗せて計算し直してください。
2番目が最も誤解されやすいところです。「もう車を持っているから維持費はかからない」と考える人がいますが、30,000円には購入費が入っていません。所有していても燃料・保険・税・車検・駐車場は毎月出ていきます。差し引きゼロにできるのは「移住の前後で車の使い方が変わらない」場合だけで、いま公共交通で通勤していて車は週末しか使っていないなら、通勤で使い始めた分だけ燃料代と消耗品費は増えます。
候補を絞ったあとに確認すること
- 勤務先の駐車場の有無と月額(有料の場合は給与天引きか自己負担かも含めて求人票または人事に確認し、その月額を30,000円に上乗せする)
- 住みたいエリアの月極駐車場の相場(本サイトの8,000円は自宅の月極1台分の地方相場であり、市の中心部では上振れします)
- 夜勤明けや深夜帯の公共交通の運行時間(日中は電車・バスで通えても、夜勤の時間帯に足がなければ車が必要になります)
- 冬季の通勤条件(積雪地域ではスタッドレスタイヤの購入・交換費用が加わりますが、本サイトの30,000円は全国標準値で地域別の差は反映していません)
よくある質問
- 地方に移住すると車は必要になりますか?
- 都市によって変わります。本サイトが比較する52都市のうち、車が必要と判定したのは30都市、あると便利が20都市、不要は東京23区と大阪市の2都市です。判定は都道府県別の世帯当たり乗用車保有台数(1.0台以上)と市区町村別の自家用車通勤率(50%以上)の組み合わせで行っています。ただし同じ市内でも中心部と郊外では事情が違うため、最終的には自分の通勤経路と勤務先の立地で確かめてください。
- 車の維持費は本当に月3万円かかりますか?
- 内訳は燃料約7,000円、任意保険約5,000円、自動車税・重量税・自賠責の月割約4,000円、車検・整備・タイヤの月割約6,000円、駐車場約8,000円で、合計30,000円です。軽自動車〜コンパクトカーを地方で持つ場合の標準値で、車両の購入費や下取り時の値落ちは含みません。駐車場の8,000円は自宅の月極1台分の相場なので、22,000円に下げられるのは駐車場代が家賃に含まれる物件に住む場合だけです(保管場所(車庫)は自宅側に確保するのが原則で、職場の駐車場が無料でも消えません)。職場の駐車場が有料ならその月額を上乗せし、走行距離が短ければ燃料分が下がります。新たに1台買うなら車両代も上乗せされます。
- 家賃が3万円安くなれば、車の維持費と相殺できますか?
- 手取りと生活費が変わらなければ相殺できますが、実際には収入も変わります。車が必要な30都市の想定年収は平均490.4万円で、それ以外22都市の523.8万円より33.4万円低いためです。東京23区から佐賀市に移る場合、家賃は59,272円下がりますが手取りが63,107円下がるので、釣り合うには家賃差が87,107円必要になります。家賃・年収・車の3つを同時に見てください。
- 車が必要な都市の中で、お金が残るのはどこですか?
- 標準条件の試算では前橋市が最も高く、毎月138,387円(52都市中13位)です。次いで宇都宮市124,694円、長野市120,448円、大津市119,797円。車が必要な30都市のうち、52都市平均の119,571円を上回るのはこの4都市だけです。いずれも家賃が52都市平均の41,411円を下回り、かつ想定年収の順位が17位以内という組み合わせで、月30,000円の維持費を吸収しています。
この記事で使った出典
- 都道府県別の自家用乗用車の普及状況(令和7年3月末現在・1世帯当たり保有台数) / 自動車検査登録情報協会 / 2025年 / 取得日 2026年7月3日
- 令和2年国勢調査 利用交通手段(自家用車通勤・通学率) / 総務省統計局 / 2020年 / 取得日 2026年7月3日
- 自家用車維持費の標準値(軽〜コンパクト・駐車場込み・車両減価償却を除く月額目安) / 日本自動車工業会 乗用車市場動向調査ほか / 2024年 / 取得日 2026年7月3日
- 小売物価統計調査(動向編)民営家賃(1か月3.3㎡当たり) / 総務省統計局 / 2026年 / 取得日 2026年7月3日
- 賃金構造基本統計調査 令和6年 第3表(職種(特掲)・都道府県別) / 厚生労働省 / 2024年 / 取得日 2026年7月3日
- 消費者物価地域差指数(小売物価統計調査 構造編)2024年結果 家賃を除く総合 / 総務省統計局 / 2024年 / 取得日 2026年7月3日
- 家計調査(家計収支編)単身世帯のうち勤労者世帯 1か月平均消費支出 / 総務省統計局 / 2024年 / 取得日 2026年7月3日