病院数と人口10万対病院数——「転職先の選択肢の多さ」をどう測るか
転職先の選択肢の多さは、病院数(絶対数)と人口10万対病院数(密度)という2つの数字で測れます。この2つはしばしば逆を向きます。東京23区は病院数393で52都市中1位ですが、人口10万対では4.04で45位。高知市は病院数59でも、人口10万対18.07で1位です。この記事では、どちらの数字をどの場面で見るべきかを実数で整理します。
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- 看護師の移住マネーガイド 運営部
結論: 2つの数字は、別の質問に答えている
病院数と人口10万対病院数は、似た名前をしていますが答える質問が違います。病院数はその市に病院がいくつあるかという絶対数で、「求人がどれだけ出うるか」の上限に関係します。人口10万対病院数は人口あたりの密度で、「その地域に住む人ひとりに対して病院がどれだけ厚く配置されているか」を示します。転職先を探すときに必要なのは、多くの場合この両方です。
人口10万対病院数 = 病院数 ÷ 人口 × 100,000
本サイトでは病院数を医療情報ネットのオープンデータ(2025年12月1日時点)、人口を令和2年国勢調査から取り、市区町村単位で計算しています。東京は23区を合算して1都市として扱っています。
この2つの数字が逆を向く例が、東京23区と高知市です。病院数は東京23区が393、高知市が59で、東京23区が約6.7倍。ところが人口10万対病院数は高知市が18.07、東京23区が4.04で、今度は高知市が約4.5倍になります。同じ2都市を比べているのに、どちらの数字を見るかで結論が正反対になります。
| 都市 | 病院数 | 病院数の順位 | 人口10万対病院数 | 密度の順位 |
|---|---|---|---|---|
| 東京23区 | 393 | 1位 | 4.04 | 45位 |
| 大阪市 | 166 | 2位 | 6.03 | 32位 |
| 札幌市 | 151 | 3位 | 7.65 | 20位 |
| 横浜市 | 123 | 4位 | 3.26 | 49位 |
| 熊本市 | 91 | 8位 | 12.32 | 4位 |
| 高知市 | 59 | 13位 | 18.07 | 1位 |
| 徳島市 | 44 | 17位 | 17.43 | 2位 |
| 川崎市 | 38 | 26位 | 2.47 | 52位 |
| 那覇市 | 10 | 52位 | 3.15 | 50位 |
順位の入れ替わりは局所的な現象ではありません。52都市の病院数を合計すると2,788、人口を合計すると48,015,993人で、合計から計算した人口10万対病院数は5.81です。一方、52都市それぞれの密度を単純平均すると7.28になります。合計ベースのほうが低く出るのは、人口の大きい都市が密度の低い側に偏っているためです。
人口がほぼ同じ6都市で、病院数は25から91まで開く
密度の差が実感しにくい人のために、人口をそろえて比べます。52都市のうち人口が69万人台から79万人台に収まる6都市を並べると、病院数は25から91まで、3.6倍以上の幅があります。人口が同じなら病院数も同じくらい、という直感は成り立ちません。
| 都市 | 人口 | 病院数 | 人口10万対病院数 | 看護職の有効求人倍率 |
|---|---|---|---|---|
| 熊本市 | 738,865 | 91 | 12.32 | 2.17 |
| 岡山市 | 724,691 | 55 | 7.59 | 2.09 |
| 新潟市 | 789,275 | 42 | 5.32 | 2.03 |
| 浜松市 | 790,718 | 31 | 3.92 | 2.51 |
| 相模原市 | 725,493 | 28 | 3.86 | 1.94 |
| 静岡市 | 693,389 | 25 | 3.61 | 2.51 |
熊本市と静岡市を取り出すと、人口差は45,476人(熊本市のほうが多い)にすぎませんが、病院数は91と25で3.64倍の差があります。もっと極端なのが岡山市と相模原市で、人口差はわずか802人。それでも病院数は55と28で、約2.0倍違います。人口はほぼ同一なのに、市内で選べる病院の数が倍違うということです。
逆方向の例も挙げておきます。東京23区の人口は熊本市の約13.2倍ですが、病院数は393と91で約4.3倍にとどまります。仮に東京23区が熊本市と同じ密度(人口10万対12.32)だったとすると、病院数は約1,199になる計算です。実際の393はその約3分の1で、人口の伸びに病院数が比例していないことがわかります。
なぜこれほど差が付くのかは、本サイトが持つデータからは説明できません。病床規制の経緯、公立・公的病院の配置、隣接自治体との役割分担など複数の要因が絡みますが、病院数と人口の2つの数字だけでは要因を切り分けられません。ここでは「差が実在する」ことまでを事実として扱い、理由の断定は避けます。
密度が高い都市=求人が取りやすい都市、ではない
この節でわかるのは、病院の多さと求人の取りやすさが別物だということです。求人の取りやすさに近い指標は有効求人倍率で、これはハローワークに出ている求人数を求職者数で割った値です。倍率が高いほど求職者1人あたりの求人が多く、低いほど1つの求人を多くの人が取り合う状態になります。
人口10万対病院数が1位の高知市(18.07)は、看護職の有効求人倍率が1.34で52都市中52位です。密度2位の徳島市(17.43)は求人倍率2.40で8位。密度がほぼ同じ2都市で、求人倍率の順位は最下位と上位に分かれます。密度から求人の取りやすさを推測することはできません。
| 都市 | 人口10万対病院数 | 密度の順位 | 有効求人倍率 | 倍率の順位 |
|---|---|---|---|---|
| 高知市 | 18.07 | 1位 | 1.34 | 52位 |
| 徳島市 | 17.43 | 2位 | 2.40 | 8位 |
| 富山市 | 10.39 | 7位 | 2.42 | 7位 |
| 佐賀市 | 11.14 | 5位 | 1.79 | 42位 |
| 札幌市 | 7.65 | 20位 | 1.48 | 51位 |
| 名古屋市 | 4.80 | 41位 | 2.97 | 1位 |
| 静岡市 | 3.61 | 48位 | 2.51 | 5位 |
| 川崎市 | 2.47 | 52位 | 1.94 | 38位 |
絶対数についても同じことが言えます。病院数が最も多い上位5都市(東京23区393、大阪市166、札幌市151、横浜市123、福岡市116)の有効求人倍率を単純平均すると1.87。病院数が最も少ない下位5都市(大津市15、甲府市14、鳥取市11、松江市11、那覇市10)の単純平均は1.97で、少ないほうがわずかに高くなります。52都市全体の単純平均は2.08です。
病院が多い都市には求職者も集まるため、求人数が多くても倍率が上がるとは限らない、という関係がここに表れています。ただしこれは5都市ずつの平均であり、都市の選び方を変えれば結果も変わります。「病院数が多いほど競争が厳しい」という法則が成り立つとまでは、このデータからは言えません。
「合わなかったら次に移れるか」は絶対数で見る
転職の意思決定でほとんど語られないのに、実際には効いてくる観点があります。転職先が自分に合わなかったとき、引っ越さずに次へ移れるかどうかです。これは同一通勤圏内にある代替先の数、つまり絶対数の問題です。密度が高くても、市そのものが小さければ代替先の実数は少なくなります。
那覇市がわかりやすい例です。病院数は10で52都市中最少。今の職場が合わなかった場合、市内に残る選択肢は9になります。そのうち診療科・規模・勤務形態が自分の条件に合うところがいくつあるかを考えると、実質的な選択肢はさらに絞られます。一方、東京23区なら393から1を引いても392が残ります。
密度の高い地方都市は、この観点では有利に働きます。熊本市は人口10万対12.32で密度4位、病院数も91で8位。人口73万人台の市に91の病院があるということは、住まいを動かさずに検討できる範囲が広いということです。同じ人口規模の静岡市(25)や相模原市(28)と比べると、再転職の余地は大きく違います。
ただし「市の境界」と「通勤圏」は一致しない
この見方には大きな例外があります。市区町村単位の集計では、隣接する市の病院が数に入らないためです。川崎市は病院数38、人口10万対2.47で密度52位ですが、電車で東京23区(393)や横浜市(123)に通える位置にあります。川崎市の2.47という数字を「選択肢が少ない」と読むのは明確な誤りです。
- 大都市圏に隣接する都市(川崎市・相模原市・堺市・さいたま市など)では、市域内の病院数が実際の通勤圏の選択肢を大きく下回る
- 市域が広い都市(浜松市・静岡市など)では、市内であっても車で1時間以上かかる範囲を含むため、病院数がそのまま通勤可能な選択肢の数にはならない
- 県庁所在市が単独で医療圏の中心になっている都市(高知市・徳島市・佐賀市など)では、市内の病院数が通勤圏の選択肢とかなり近くなる
つまり、絶対数をそのまま「代替先の数」と読んでよいのは3つ目のパターンだけです。候補都市が1つ目や2つ目に当てはまる場合は、地図上で自分の通勤許容時間の円を描き、その中に入る市町村の数字を足し合わせて考える必要があります。
自分の候補都市に当てはめる手順
ここまでの内容を、実際の都市選びに使える順序に並べます。数字を見る順番を間違えると、候補が不当に狭くなったり広がりすぎたりします。
- まず絶対数で足切りする。市内の病院数が10前後しかない都市は、通勤圏を市外に広げる前提でなければ候補になりにくい。那覇市の10、鳥取市と松江市の11がこの水準です
- 次に密度で「生活圏の厚み」を見る。人口10万対病院数が52都市の単純平均7.28を上回る都市は、住まいを動かさずに職場を変えられる余地が相対的に大きいと判断できます
- 有効求人倍率を別軸として重ねる。密度と倍率は連動しないので、両方を並べて見ます。密度が高くて倍率も高い都市(富山市は密度7位・倍率7位)は、選択肢と採用余地の両方がある状態です
- 地図で通勤許容時間の円を描く。候補都市が大都市圏の一部なら隣接市の病院数を足し、市域が広い都市なら市内でも通えない範囲を差し引きます
- 最後に個別病院を見る。診療科・病床数・急性期か慢性期か・経営主体・現在の募集状況を、病院の公式サイトと求人票で1件ずつ確認します。ここまで来て初めて、統計は役目を終えます
2番目と3番目を混同しないことが特に重要です。密度は「その都市に住んだときの選択肢の厚み」、有効求人倍率は「いま応募したときの競争環境」で、時間軸が違います。密度は数年単位で大きく変わりませんが、求人倍率は景気や年度で動きます。長く住むつもりなら密度を重く、すぐに決めたいなら倍率を重く見るのが妥当です。
よくある質問
- 病院数が多い都市を選べば転職しやすいですか?
- 病院数の多さは求人の母数に関係しますが、採用されやすさとは別です。病院数が最も多い上位5都市(東京23区393、大阪市166、札幌市151、横浜市123、福岡市116)の看護職の有効求人倍率を単純平均すると1.87で、病院数が最も少ない下位5都市の1.97をわずかに下回ります。病院が多い都市には求職者も集まるためです。数と倍率は別々に確認してください。
- 人口10万対病院数が高い都市は医療が充実しているということですか?
- 施設の数え上げが多いという意味であって、医療資源の量が多いとは限りません。病床数10床台の病院も1,000床規模の大学病院も同じ「1」として数えるためです。大都市には大規模病院が集中する傾向があるため、人口10万対病院数が最下位の川崎市(2.47)と1位の高知市(18.07)の差を、そのまま医療の厚みの差と読むことはできません。
- 病院数にクリニックや訪問看護ステーションは含まれますか?
- 含まれません。本サイトの病院数は医療法上の病院にあたる施設のみを数えており、無床・小規模の診療所、訪問看護ステーション、介護施設、企業や学校の医務室は対象外です。看護師の就業先はこれらにも広がるため、実際に応募できる職場の総数は病院数より多くなります。病院数は都市を比較するための共通のものさしとして使ってください。
- 移住先で職場が合わなかった場合、同じ市内で転職できますか?
- 市内の病院数によります。那覇市は病院数10で52都市中最少のため、1か所辞めると市内に残る選択肢は9です。一方、熊本市は91あり、人口が近い静岡市の25や相模原市の28と比べても再転職の余地は大きくなります。ただし川崎市のように市域の病院数が38でも東京23区や横浜市に通える都市もあるため、市の境界ではなく自分の通勤許容時間で範囲を判断してください。
この記事で使った出典
- 医療情報ネット オープンデータ 病院・施設情報(2025年12月1日時点版・PDL1.0) / 厚生労働省 / 2025年 / 取得日 2026年7月3日
- 令和2年国勢調査 人口(市区町村・特別区部) / 総務省統計局 / 2020年 / 取得日 2026年7月3日
- 一般職業紹介状況(職業安定業務統計)雇用関係指標(年度)第4表・第5表(都道府県別・雇用形態別・職業(中分類)別 有効求人数/有効求職者数)令和6年度 / 厚生労働省 / 2024年 / 取得日 2026年7月3日