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看護師の移住マネーガイド
求人・職場選び

看護職の有効求人倍率は何を示し、何を示さないのか——2倍超の数字の正しい使い方

有効求人倍率が2倍を超えていても、その県の看護師の待遇が良いとは限りません。本サイトが比較する52都市で、倍率と想定年収の相関係数は0.15とほぼ無関係です。倍率3位の岐阜市は想定年収41位、倍率26位の大阪市は想定年収3位。この記事では、倍率が何を測った数字なのかを定義から確認し、候補地の絞り込みには使えて条件交渉には使えない理由を実数で説明します。

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看護師の移住マネーガイド 運営部

有効求人倍率は何を何で割った数字か

この節では、倍率の計算式・数字の出どころ・対象になっている職業区分と地域単位を確認します。ここを押さえておかないと、あとの解釈をすべて間違えます。

有効求人倍率の定義

有効求人倍率 = 有効求人数 ÷ 有効求職者数

「有効」は、有効期間内にある(まだ募集中・まだ求職中の)件数という意味です。分子は事業所から出された求人の件数、分母は仕事を探している人の数で、どちらもハローワークが受け付けた件数を数えています。

本サイトが各都市ページに載せている看護職の有効求人倍率は、厚生労働省の職業安定業務統計(一般職業紹介状況)の令和6年度の値です。職業の中分類「保健師、助産師、看護師」について、都道府県別の有効求人数と有効求職者数から算出されています。

したがって、この数字が捉えているのはハローワークに出た求人と、ハローワークに登録した求職者だけです。民間の求人サイト・人材紹介会社を通じた募集や、病院が自院のサイトだけで出している募集は分子に入りません。同様に、そうした経路だけで探している看護師は分母に入りません。実際の看護師の求人・求職の総量は、この統計が示す量より多いと考えるのが自然です。

職業区分は「保健師、助産師、看護師」をまとめた中分類です。この3職種を切り分けた数字ではないため、看護師だけの需給を見ているわけではありません。また地域の単位は都道府県で、市区町村別の値は公表されていません。本サイトの52都市には同じ県の政令指定都市が複数含まれるため、52都市の倍率は実質47都道府県分の値です。

看護職の有効求人倍率の分布(52都市のうち上位・中位・下位を抜粋/令和6年度・都道府県別)
都市都道府県有効求人倍率52都市中の順位
名古屋市愛知県2.971位
水戸市茨城県2.732位
浜松市静岡県2.516位
大阪市大阪府2.0326位
鹿児島市鹿児島県1.9636位
福岡市福岡県1.5449位
札幌市北海道1.4851位
高知市高知県1.3452位
出典: 一般職業紹介状況(職業安定業務統計)雇用関係指標(年度)第4表・第5表(都道府県別・雇用形態別・職業(中分類)別 有効求人数/有効求職者数)令和6年度 2024

52都市の中央値は2.03倍、平均は2.08倍です。2.0倍以上が31都市、2.5倍以上は6都市、1.5倍を下回るのは札幌市と高知市の2都市だけ。最低の高知市でも1.34倍で、1.0を割り込む都市は1つもありません。看護職の求人がハローワーク上で求職者数を上回っている状態は、全国どこでも共通しています。

倍率が高い県ほど条件が良い、という関係はデータに出ていない

結論を先に書きます。52都市のデータで、有効求人倍率と看護師の想定年収の相関係数は0.15、倍率と毎月手元に残るお金の相関係数は0.14でした。相関係数は−1から+1の値をとり、0に近いほど2つの数字に関係がないことを示します。0.15は「ほとんど関係がない」と読む水準です。

倍率の上位10市と下位10市を平均で比べると、この関係の薄さがはっきりします。平均倍率は2.54倍と1.62倍で0.92ポイントの差がありますが、平均想定年収の差はわずか6.7万円(年額)です。

有効求人倍率の上位10市と下位10市の平均比較(標準条件: 40歳未満・扶養なし・単身30㎡想定)。列ごとの出所は、有効求人倍率が職業安定業務統計(令和6年度・都道府県別)、想定年収が賃金構造基本統計調査(都道府県別)、毎月残るお金が本サイト試算。
区分平均有効求人倍率平均想定年収平均の毎月残るお金
倍率が高い上位10市2.54507.7万円126,304円
倍率が低い下位10市1.62501.0万円119,648円
0.926.7万円6,656円
出典: 賃金構造基本統計調査 令和6年 第3表(職種(特掲)・都道府県別) 2024

上位10市の平均倍率は下位10市の約1.57倍(0.92ポイント差)ですが、待遇の平均は年収で6.7万円、毎月残るお金で6,656円しか動きません。年収507.7万円に対する6.7万円は1.3%です。個別の都市を見ると、順位はさらに大きく入れ替わります。

有効求人倍率の順位と待遇の順位が一致しない例(かっこ内は52都市中の順位)。列ごとの出所は、有効求人倍率が職業安定業務統計(令和6年度・都道府県別)、想定年収が賃金構造基本統計調査(都道府県別)、毎月残るお金が本サイト試算。
都市有効求人倍率想定年収毎月残るお金
水戸市2.73(2位)503.3万円(31位)113,952円(33位)
岐阜市2.63(3位)479.6万円(41位)100,172円(40位)
松山市2.37(9位)460.8万円(48位)88,671円(48位)
京都市2.13(20位)564.0万円(2位)157,921円(2位)
大阪市2.03(26位)560.0万円(3位)155,437円(6位)
札幌市1.48(51位)512.0万円(21位)139,289円(12位)
出典: 賃金構造基本統計調査 令和6年 第3表(職種(特掲)・都道府県別) 2024

岐阜市は倍率3位ですが想定年収は41位、残るお金は40位です。松山市は倍率9位で年収48位・残るお金48位。逆に札幌市は倍率51位ながら年収21位・残るお金12位です。倍率の順位から待遇の順位を推測することはできません。

倍率が高い理由は2通りあり、数字からは区別できない

倍率は分数です。値が大きくなる原因は、分子(求人数)が多いか、分母(求職者数)が少ないかの2通りあります。前者なら「募集が活発」ですが、後者は「その地域で働きたい人が少ない」という状態です。倍率という1つの数字からは、どちらが起きているのか区別できません。

分母が小さい理由も倍率からはわかりません。給与水準・夜勤体制・通勤条件のどれかが選ばれにくい可能性も、単にその県の看護師人口が少ない可能性も、どちらも排除できません。「倍率が高い=人手不足が深刻なだけ」という読み方も、「倍率が高い=好条件の求人が多い」という読み方も、この数字だけでは裏付けられないということです。

逆方向も同じです。倍率が下位の札幌市(51位・1.48倍)や福岡市(49位・1.54倍)も、求人が少ないのか求職者が多いのかは倍率からは判別できません。52都市の最下位は高知市の1.34倍ですが、その高知市は人口10万人あたり病院数が18.07で1位です。職場の数が少ないから倍率が低い、という説明は成り立ちません。そして倍率が近い都市どうしでも実態は一致しません。札幌市の毎月残るお金は139,289円で12位、福岡市は115,491円で32位、高知市は100,161円で41位です。

高倍率と好条件が両立している都市もある

念のため逆の決めつけも避けておきます。倍率1位の名古屋市(2.97倍)は、想定年収542.0万円で9位、毎月残るお金155,509円で5位と、待遇の面でも上位です。「倍率が高い県は条件が悪い」という読み方も成り立ちません。正確に言えるのは「倍率と待遇は連動していない」ということだけです。

倍率が答えていない3つの問い

この節では、倍率を見ても答えが出ない3つの点を挙げます。転職先を絞り込むときに必要な情報の多くが、ここに入っています。

① その求人は常勤か、パートタイムか

この統計の原表は雇用形態別の内訳を持っていますが、本サイトが各都市ページに載せているのは中分類「保健師、助産師、看護師」全体の倍率です。週数日の短時間求人も1件、夜勤ありの常勤求人も1件として同じように数えられます。倍率が2.5倍でも、その中身が常勤中心なのか短時間中心なのかは、この数字からは読み取れません。常勤で探している人にとって、倍率は自分向けの求人量を表していない場合があります。

② その求人はどの市のものか

倍率は都道府県単位でしか公表されていません。そのため同じ県内の市はすべて同じ値になります。神奈川県の横浜市・川崎市・相模原市はいずれも1.94倍で、想定年収も546.3万円で同じです。しかし家賃・毎月残るお金・病院の多さは市ごとに違います。

倍率が同じでも中身は違う(同一県内の政令指定都市の比較・標準条件)。列ごとの出所は、有効求人倍率が職業安定業務統計(令和6年度・都道府県別)、平均家賃が小売物価統計調査の民営家賃、人口10万人あたり病院数が医療情報ネット(2025年12月時点)+令和2年国勢調査、毎月残るお金が本サイト試算。
都市有効求人倍率平均家賃(月)毎月残るお金人口10万人あたり病院数
横浜市1.9462,436円135,483円3.26
川崎市1.9467,309円131,735円2.47
相模原市1.9452,127円148,117円3.86
福岡市1.5444,500円115,491円7.19
北九州市1.5434,336円125,633円9.37
出典: 小売物価統計調査(動向編)民営家賃(1か月3.3㎡当たり) 2026

相模原市と川崎市は同じ1.94倍ですが、毎月残るお金は16,382円違います。年額に直すと196,584円です。福岡市と北九州市も同じ1.54倍で、残るお金の差は月10,142円(年121,704円)、人口10万人あたり病院数は7.19と9.37で1.3倍以上の開きがあります。市を選ぶ段階に入ったら、倍率は判断材料になりません。

③ 自分が応募する病院の需給はどうか

倍率は県内すべての事業所を合計した値です。自分が働きたい病院が募集を締め切っていても、県内の別の施設が10人募集していれば県の倍率は上がります。希望する病床規模・診療科・夜勤体制の職場に空きがあるかどうかは、倍率とはまったく別の情報です。県の倍率が2.9倍でも、条件に合う1件が見つからなければ転職は進みません。

「病院が多い県ほど倍率が高い」でもない

職場の選択肢の広さは、人口10万人あたりの病院数で見ます。この指標と有効求人倍率の相関係数は−0.22で、こちらもほぼ無関係です(わずかに逆向きの傾向が出ていますが、順位で見るとさらに弱まります)。

極端な例が高知市と徳島市です。高知市の人口10万人あたり病院数は18.07で52都市中1位(人口326,545人に対し病院59施設)。それでも高知県の倍率は1.34で52都市中最下位です。一方の徳島市は病院数17.43で2位、倍率は2.40で8位。病院の密度がほぼ同じ2市で、倍率は1.06ポイント違います。

人口10万人あたり病院数と有効求人倍率は連動しない(かっこ内は52都市中の順位)
都市人口10万人あたり病院数有効求人倍率
高知市18.07(1位)1.34(52位)
徳島市17.43(2位)2.40(8位)
鹿児島市12.48(3位)1.96(36位)
名古屋市4.80(41位)2.97(1位)
東京23区4.04(45位)2.34(13位)
出典: 医療情報ネット オープンデータ 病院・施設情報(2025年12月1日時点版・PDL1.0) 2025

名古屋市は逆の組み合わせです。倍率は2.97で1位ですが、人口10万人あたり病院数は4.80で41位(人口2,332,176人に対し病院112施設)。病院が多いから倍率が高いわけでも、少ないから低いわけでもありません。

2つの指標は別のことを測っています。病院数は「通える範囲に職場の候補がどれだけあるか」、倍率は「ハローワークに出ている求人と求職者の比」です。転職先の選択肢の広さを知りたいなら病院数を、募集がどれくらい出ているかを知りたいなら倍率を見てください。片方でもう片方を代用することはできません。

転職活動での使い方——絞り込みには使える、交渉には使えない

結論から書きます。有効求人倍率は、候補地を10か所から5か所に減らす段階では役に立ちます。応募先を1つに決める段階と、給与や勤務条件を交渉する段階では役に立ちません。理由は、この数字が都道府県の合計値であり、目の前の病院の採用状況を含んでいないからです。

使える場面

  • 移住先の候補が複数あり、どこも土地勘がないとき。倍率1.34の高知県と2.97の愛知県では、ハローワーク上の需給比が2.2倍違います。求人の探しやすさの初期見当としては意味があります。
  • 家族の都合などで選べる県が限られているとき。残った候補県の倍率を確認し、募集が薄い県は転職活動の期間を長めに見積もる。
  • 転職の時期に余裕がないとき。倍率が低い県では、条件に合う求人が出てくるまでの待ち時間が読みにくくなります。

使えない場面

  • 給与交渉の材料にすること。倍率は県全体の合計値で、応募先の病院がいま何人採りたいのかとは無関係です。県の倍率を根拠に条件を求めても、その病院の採用計画は変わりません。
  • 「倍率が高いから好条件の求人が多いはず」という推測。52都市での倍率と想定年収の相関係数は0.15です。
  • 常勤求人の多さの推測。中分類全体の値であり、常勤とパートタイムを分けていません。
  • 市を選ぶ段階の判断。相模原市と川崎市は同じ1.94倍ですが、毎月残るお金は16,382円違います。
  • 民間の求人サイトを含めた市場全体の判断。この統計にはハローワーク経由の求人・求職しか入っていません。

実際の手順

  1. 候補県を倍率で並べ、極端に低い県を優先度の下位に置く。ただし除外はしない。札幌市は倍率51位でも毎月残るお金は12位です。
  2. 残った候補について、想定年収・平均家賃・毎月残るお金を並べ直す。倍率と待遇は連動しない(相関係数0.15)ため、この時点で順位が入れ替わることが多くなります。
  3. 上位3〜5市について、人口10万人あたり病院数で職場の選択肢の広さを確認する。倍率が高くても病院が少なければ、転職先の選択肢は限られます。
  4. 残った市について、実際の求人票を1件ずつ見る。ここから先は統計ではなく、給与額・夜勤回数・住宅手当・配属予定部署といった個別条件の話になります。
  5. 面接や条件交渉では、倍率ではなく自分の経験年数・保有資格・夜勤可否・希望配属を材料にする。倍率は相手にとって既知の情報であり、交渉力にはなりません。

よくある質問

看護師の有効求人倍率が2倍を超えているのは、それだけ売り手市場ということですか?
ハローワーク上で求人が求職者を上回っている状態であることは確かです。52都市の中央値は2.03倍で、最も低い高知市でも1.34倍と、1.0を割る都市はありません。ただし倍率が高いことと、条件の良い求人が多いことは別の話です。52都市で倍率と想定年収の相関係数は0.15、毎月残るお金との相関係数は0.14で、ほとんど関係がありません。募集の量と待遇は分けて確認してください。
有効求人倍率が高い県に転職すれば給料は上がりますか?
上がるとは限りません。倍率3位の岐阜市は想定年収479.6万円で41位、倍率9位の松山市は460.8万円で48位です。逆に倍率26位の大阪市は560.0万円で3位でした。倍率の高さは給与水準を保証しません。年収は賃金構造基本統計調査の県別の値を、手元に残る金額は家賃と生活費を引いた額を、それぞれ別に確認してください。
この倍率には転職サイトや紹介会社の求人も入っていますか?
入っていません。有効求人倍率はハローワークが受け付けた有効求人数と有効求職者数から計算する数字です。民間の求人サイト・人材紹介会社を経由した募集や、病院が自院サイトだけで出している募集は分子に含まれず、そうした経路だけで探している看護師は分母に含まれません。実際の募集の総量は倍率が示す量より多いと考えるのが自然で、この数字は絶対量ではなく県ごとの比較の目安として使うのが適切です。
市ごとの有効求人倍率は調べられますか?
この統計は都道府県単位で公表されており、市区町村別の値はありません。そのため同じ県内の市はすべて同じ倍率になります。横浜市・川崎市・相模原市はいずれも1.94倍ですが、毎月残るお金は135,483円・131,735円・148,117円と差があります。市を選ぶ段階では、倍率ではなく平均家賃・想定年収・人口10万人あたり病院数など、市単位で出せる数字を使ってください。

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